特別寄稿

【 光岡武学の「先験的な偏り」に潜む反対称性と相補性について 】


シナジェティクス研究所 梶川 泰司

私が初めて武学の基礎クラスを受講した時(2019.3.21)、最初の30分が経過した頃までに、これから引き起こされる重要な事態が未来にフラッシュバックし始めていた。未来へのフラッシュバックとは、私の過去の内的経験が瞬間的に連続して未来へ挿入される時間反転操作によるリアリティである。それは、セレンディピティ(serendipity)と言われる予想外の偶然性、否、それを超えた既に幸運な出来事の渦そのものにいたのである。
光岡英稔氏が発見した「先験的な偏り」をもった新たな身体観には、形態(form)と元型(model)が交差し交感する特異点があり、同時にそれらが交互に変換するための動く閉じた場(=トポロジー)があると思われた。特異点は、元型、つまりモデルがあって初めて認識される。モデルはつねにメタフィジカルであり、形態つまり身体はつねにフィジカルであるからでもある。

光岡武学の「先験的な偏り」を識るためには、形態(form)と元型(model)を交互に変換させる複数の操作方法(オペレーション)が存在するはずである。
彼の武学における前後、左右、表裏の数学的概念は、古代ギリシアでは、「シンメトリー」という言葉だけで表されていた。「シンメトリー」はその後の専門分化(数学、物理学、化学、生物学、結晶学、美学など)によってより加速的に分岐してきたが、それらの分岐した諸概念を再び統合する峻烈な行為もまた異なるカテゴリーに分割されてきた。

しかし、光岡武学とシナジェティクスとが交互に織りなす今回の互いに異なる2種のデモンストレーションによって、光岡氏によって発見された元型とその元型の存在を再現するための単純化されたオペレーションと、1981年に私が発見した正12面体のトポロジーモデル(20−Polyvertexion)とその正4面体に変換するプロセス及び、そのオペレーションとの間に潜んでいた驚くべき反対称性(antisymmetry)は、前例のないアナロジーに置換する最初の実験となるにちがいない。
発見される先験性は、つねに宇宙からの出荷状態(デフォルト)である。シナジェティクスモデルは、「先験的な偏り」の幾何学的元型を動的に視覚化する。
鏡像対称性のない陽子と電子が安定する原子核構造を形成する時の相互作用は、自然のオペレーショナルな「相補性」なのであるが、この実験は互いに異なる武学とシナジェティクスを接近させ、やがて結合させる最初の反対称的な「相補性」になるだろう。

【解説】
左右の手のように平常が相似で向きが反対のものはアシンメトリー( Asymmetry)と呼ばれ、非対称あるいは左右対称を意味する。
ディシンメトリー(dissymmetry)とは、無対称性の歪み、偏り、不均衡を意味する。
3番目のもっとも新しい概念であるアンチ・シンメトリー(antisymmetry)は、アジア圏では陰陽の概念として新しくはないが、科学で登場したのは1950年以降の結晶学、とくにM.S.エッシャー学である。この反対称性は、接頭語を直訳して「対称性に反する」という意味ではない。反対称性は対称性に関する新しいオペレーションである。
☆『コスモグラフィー』(バックミンスター・フラー 著 白揚社 2007年 梶川泰司の解説から引用・編集)